C-ラボ(市民放射能測定センター)で、検体の土壌からヨウ素を検出した。精査した結果、これは機械の誤作動だった。おそらくゲルマニウム半導体式では発生しない、NaIシンチレータならではの誤作動だ。何がどう誤作動なのかをメモしておく。
まず機械の話から。
NaIシンチレーションスペクトロメーターは、NaI(ヨウ化ナトリウム)の結晶を利用した測定機である。ヨウ化ナトリウムは、ガンマ線が差し込むと発光する。また、ガンマ線の強度に応じて、発光の強度も変わる。強い放射線と弱い放射線を別のものとしてカウントし、それぞれの強度が何カウント出ているかを記録することで、スペクトルのグラフを描いていく。
核種が発するガンマ線には、核種ごとに固有の強度があって、keV(キロ・エレクトロンボルト)とかMeV(メガ・エレクトロンボルト)という単位であらわす。放射性ヨウ素(I-131)は、364.48keVのガンマ線を出すので、この強さのガンマ線がカウントされていくと、グラフの360近辺にぐんぐん山ができていって、「ああこれはヨウ素があるんだな」ということになる。
問題は、機械の精度がわりと大雑把というか読み取る幅が広いので、350keVのカウントも370keVのカウントも、「だいたい360keV」とみなして計算してしまうことだ。
で、「ヨウ素検出」となった土壌のスペクトルをよく見ると、山のピークがちょっとだけ左にズレている。ヨウ素のピークは364keVにあるべきなのだが、検査結果のスペクトルは350keVあたりに山ができている。これは、鉛の強度である。Pb-214(鉛214)の強度は352keVなのだが、どうやらこの鉛の山をヨウ素131の山と誤認したようだ。この推論を裏付けるのは、350keVの山のさらに左、240keVあたりにもっと高い山がぐんぐんできていて、この強度もやはりPb-214の発するガンマ線(242keV)なので、「この土けっこう鉛っぽい」という結論になった。(240keVあたりの山がばかみたいに高いのは、もしかすると別の鉛Pb-212(239keV)も混ざっているのかもしれない)
整理すると、
I-131の山 364keV
Pb-214の山 352keV、242keV
Pb-212の山 239keV
ということなので、
NaIが「ヨウ素検出」という結果を出したときは、まず240keVあたりに山がないかどうか確認したほうがいい。鉛っぽい山ができていたら、誤作動の可能性あり。
追記
この鉛214は、ではどこから来たのかというと、ラジウムが崩壊して生まれる。
ラジウム226(半減期1600年)→ラドン222(3.824日)→ポロニウム218(3.1分)→鉛214(26.8分)。
鉛214が崩壊すると、ビスマス214とかタリウム210とかもろもろあって、鉛210(22.3年)を経て、最終的に鉛206で安定する。
おまけ(本文とは関係ありません)