2023年5月10日水曜日

嘘つきの戦争報道

 


ウクライナのバハムートの戦いで、民間軍事会社ワグネルを統率するプリゴジンがトリッキーな動きをしている。プリゴジンはSNS上で、弾薬の供給が足りないとか、ワグネルの撤退を示唆するような発信をしている。

ウクライナのゼレンスキーは、プリゴジンの言うことはでまかせだと断定している。

だが、アメリカの戦争研究所は、このプリゴジンの言葉を真に受けて、ロシア軍内部に対立と統率の乱れがあるなどと的外れな「分析」をしている。

 

 普通に考えれば、プリゴジンがやっているのは「苦肉の策」である。

 「苦肉の策」とは、赤壁の戦いで呉軍が用いた計略で、部隊が忠誠心を失って敵に投降するという芝居をうって、敵を欺く方法だ。

話は中国の三国時代にさかのぼる。魏と呉が正面からぶつかった赤壁の戦い。呉の将軍黄蓋は、指揮官の周瑜に従わなかったとして鞭打ちの刑にあう。これを恨んだ黄蓋は、部隊を率いて魏軍に投降する。黄蓋の投降を信じた魏軍は、黄蓋の部隊を陣中深くに招き入れてしまう。陣中に入った黄蓋は、魏軍の船に次々と火をかけ、壊滅的な打撃を与えた。赤壁の戦いは呉の勝利となった。これが有名な「苦肉の策」だ。日本では、ゲームばっかりやっている男子中学生でも知っている、有名な故事だ。

 いまプリゴジンが狙うのは、ワグネルがロシア軍本体と対立し弱体化しているという芝居を打って、バハムートに敵軍をおびき寄せることだ。戦況の有利な土地にポーランド人部隊やアメリカ人部隊をおびき寄せ、決定的な戦果をあげたいのだ。

 ゼレンスキーは、これが見え透いた芝居であるとわかっている。

しかしアメリカの戦争研究所は、どうにもトンチンカンな見立てをしている。プリゴジンに騙されているのか、騙されたふりをしているのか。それともたんに「ロシア軍は弱い」と言いたいだけなのか。

 なにより不可解なのは、日本の戦争報道で解説者として登場する防衛省の分析官である。彼は日本人なのだから、赤壁の戦いも「苦肉の策」も知っているはずだ。なのに、英米の分析の間違いにまったく言及しない。英米の大本営発表に、右に倣えだ。

彼はものを知らないのではなく、嘘つきなのだ。

嘘つきが戦争を解説しているのだ。