2016年12月22日木曜日

12・17基調講演のれじゅめ

12月17日の集会の内容は、報告集としてまとめて来年に発行します。
私が提出したれじゅめを、ちょっとだけ公開します。れじゅめに添付した統計資料などは、膨大なので、ここでは割愛します。

以下、れじゅめです。
全国各地の「放射脳」左翼のみなさんで、酒の肴にしてみてください。


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れじゅめ 「復興」政策の失敗と権力の弱体化
2016/12/17 矢部史郎

1、福島「復興」政策の諸事業

 11 「食べて応援しよう」キャンペーン 2011年~
 福島県は、小規模農家の戸数が多い農業県である。復興庁・福島県は、農産物の「風評被害払拭」のために、年間16億円の宣伝費用を投じている。このキャンペーンによって、きゅうり、トマト、ももについては、出荷額を事故前の水準に戻している。だが、農家の戸数は減少の一途をたどっている。また、首都圏の消費者意識調査では、「福島産を買わない」が30%と横ばいである。首都圏の消費者の3割は「放射脳」として定着している。

 12 除染事業 2012年~2015年 
 復興庁は、爆心地の周辺11市町村(国直轄除染)のうち、7市町村で除染事業を完了している。除染の効果は最大で45%(空間線量率)である。これはセシウム134(半減期2年)等の自然減衰分を考えれば、あまり効果があったとはいえない。除染完了後の空間線量率は、国が「公衆に許容される」としている0.23μSV/毎時の水準を達成していない。

 13 帰還事業 2014年~
 国と福島県は、県外に避難している県民を帰還させるべく、避難者の住宅補助を打ち切ろうとしている。しかし、県外への人口流出は止まらない。201611月の発表では、県人口が190万人をわった。事故後の5年間で5万人が死亡(超過)し、7万人が県外に転出(超過)している。
人口の「社会減」(転出超過)は、とくに若年者と女性に顕著である。


2、公害訴訟の動向
 福島県の被害者らは、全国20の地方裁判所・支部で、政府と東京電力にたいする損害賠償請求訴訟を提訴している。前橋地方裁判所では、裁判長の迅速な訴訟指揮によって、201610月に結審。20173月に全国で初の判決が出る予定だ。
 201611月、自民党は、東京電力事件の処理費用の試算を、あらたに21.5兆円とし、従来の試算から倍増させた。ここには損害賠償費用の増額が含まれている。
 東京電力事件は、公害事件としての性格を明確にしはじめている。
 




3、議会政治の流動化

 31自民党の分裂・弱体化
  衆院選において自民党は得票総数を減らしている。都市部の支持層が割れて「維新の会」などに流出していることと、東北地域での支持を減らし、民進党・生活の党に負けている。自民党を支えてきた小ブルジョアジー・小地主層が、ブレている。反面、政権復帰後の参院選で自民党は得票数を大きく増やしている。これは大規模な財政出動の成果であると思われる。
自公連立は継続されている。宗教勢力への依存の度合いは強まっている。

 32民主党の解党、「連合」の分裂
  2011年から2012年にかけて、民主党は分裂した。2012年の衆院選は多党乱立の選挙となり、民主党系議員の多くが落選した。さらに、原子力政策と野党共闘をめぐって「連合」が事実上の分裂をしている。これは、原子力問題によって「連合」右派の主導性が失われているためである。

 33共産党の勢力伸長
  民主党が解党したことで、共産党は「反原発派」の事実上の受け皿になった。2014年衆院選での得票数は、事故前よりも110万票増やし、21議席を獲得した。2016年の参院選では、事故前より250万票増やし、議席数を倍増させている。
 だがこの浮動票の獲得は、共産党の意図を超えたものだ。この浮動票の性格の評価をめぐって、共産党は悶絶することになる。この間の勢力伸長は、党の運動方針の成果だろうか。あるいは、野党共闘の成果だろうか。もしもそのどちらでもないとしたら、この浮動票は何か。胡乱な浮動票が増大するにしたがって、党は選挙戦における主導性を保持できなくなってしまう。


4、権威の失墜、批評の興隆
 「放射脳」の登場によって、科学行政、大学、報道機関、社会運動の権威は失墜した。
 なかでももっとも信用を失ったのは、「復興」政策に加担したNPO・市民活動である。
 NPOは、議会政治からの自立性と実践の直接性を備える疑似革命的・疑似ユートピア的性格をもって人々を動員していた。しかし、NPOが「復興」という国策に加担したことで、その化けの皮が剝がれていった。NPOは権力を批判しつつ、それ以上に権力を補完しているという事実が、明らかになった。
 権力の補完と再生産を担うNPOの枠組みが崩れることで、多くの大衆が政治的な批評性に回帰していく。この大衆の政治化という趨勢に対応して、知識人・大学人がにわかに「リベラリズム」を表明していく。2014年以後の「リベラリズム」の流行は、政治化する大衆を封じ込めようとする反動であり、NPO体制の綻びから生じた知識階層の防衛機制である。


5、「風評」の革命的性格

 51 交渉を待たない直接行動主義
 全国で展開される放射線防護活動は、予防原則に基づいて実践されてきた。それらは、議論や交渉の結果を待たず実践され、実践のあとにじっくりと結果を検証する、という形式をとる。議論し結論を出し実践する、のではなく、まず実践をしてそのあとに議論をする、という順番をとる。おそらく人々が「放射脳」に拒絶感を示すのは、この、「まず実践を先行させる」というスタイルのためだろう。また、「放射脳」とそれ以外の人々の議論がかみあわないのは、それぞれの言葉が置かれている位置の違い、実践の前に置かれているのか、実践のあとに置かれているのかという、時間的な機序が違っているからである。
 
 52 合意形成に頼らない単独行動主義
 「放射脳」は合意形成に頼らず単独で行動する。その最たるものは母子避難者である。合意に至らないのであれば、たとえ夫婦であっても別行動をとる。場合によっては離縁する。こうした実践が社会集団に与えた衝撃は大きい。社会集団や合意形成というものが個人によって簡単に崩されてしまうことが、多くの事例によって示された。この状況は、革命的であると言ってよい。

 53 言説の革命的転換
 広範にあらわれた直接行動主義と単独行動主義は、言説が立脚する新たな条件を生み出した。
 それは交渉のための言説ではなく、交渉を待たない言説である。合意や和解を目指して権力に陳情をするような「開かれた」言説ではなく、非和解的で自律した言説である。
 「放射脳」左翼の一つの任務は、こうした革命的性格をもった言説を生み出していくことである。
 目指すべき状態は、非和解的で「まったく議論にならない」者たちが誰よりも饒舌になり、建設的で「開かれた」言葉の提案者たちが沈黙すること。これまで釈明をさせられてきた者たちが沈黙し、人々に釈明を要求してきた者たちが自己弁明に追われる、という状態である。