2013年11月13日水曜日

『風景の死滅』と海賊


 献本を二冊いただいたので、紹介します。




『風景の死滅 増補新板』 松田政男著 航思社

 1970年代、時代を切り裂いた伝説の書『風景の死滅』。復刊です。
 田畑書店から刊行されたオリジナル版に、雑誌『映画批評』の論考などを加え、増補新版として刊行されました。表紙オビの写真は中平卓馬氏。平沢剛氏の解説も戦闘的。
 2004年に雑誌のインタビューで出会って以来、松田政男氏にはさまざまなかたちで支援していただいた。2008年の洞爺湖サミット反対行動は、実はその背後で松田氏が協力していたと書いたら驚く方もいるかもしれない。活動家の中には「だまされた!」と怒り出すむきもあるかもしれないが、事実としてはそうだ。老アナキスト松田政男は21世紀に入ってもなお現役であった。私は松田氏と距離をとってつきあってきたつもりだが、まったく影響を受けなかったというと嘘になる。彼はひとから見えないところで動き、短く決定的な助言をのこす。権力の現代性を深くえぐりだす。私の原子力都市論や海賊研究も、彼の「風景の死滅」論と無縁ではありえないだろうと思う。







『海賊旗を掲げて ――黄金期海賊の歴史と遺産』 ガブリエル・クーン著 菰田真介訳 夜行社

 以文社から発売された『海賊ユートピア』につづき、海賊研究第二弾。
 アナキストはなぜ海賊に共感し、海賊になにを見出すのか。
 かつてナチズムに抵抗する青年運動が「海賊団」を名乗った時代があり、大戦後には「海賊出版」と「海賊放送」に精力を注いだ時代があり、さらに現代のアナキストは著作権侵害(パイラシー)とハッキングに磨きをかける。いったい海賊のなにが継承されてきたのか。フーコーやドゥルーズ/ガタリなど現代思想の分析枠組みを利用しながら、海賊からアナキストへの思想的系譜を探る試み。
 ちなみに著者のガブリエル・クーン氏は、2008年の洞爺湖サミットの際に来日していた。知らなかった。クーン氏は直接行動派が集う対抗キャンプでサッカーをして遊んでいたらしい。いまから考えればちゃんと席を用意して講義してもらえばよかったのかもしれない。が、革新的な研究者が実践においてはでしゃばらず地味に動いたりするのがアナキストの美徳。彼は本物だ。










『風景の死滅 増補新版』で解説を書いた平沢剛氏が名古屋に遊びに来たので、海賊翻訳者の菰田氏を呼び出して飲み会をした。前瀬氏と山の手氏も加わり、ひさしぶりに普通の飲み会ができた。
 この2年半、放射能汚染の緊張のなかで、われわれはみなバラバラになっていた。バラバラになった者がそれぞれの孤独を経て再び出会うのは、楽しい。
 今から40年前、ルンペンプロレタリアート永山則夫が列島を彷徨ったのとは別の仕方で、いま私たちは列島を移動している。風景ははるか昔に死滅していて、海のように平滑な都市がひろがっている。私たちは平滑な空間に生まれ、育ち、「ふるさと」だの「風景美」だのとは無縁に生きてきた。だからいま、孤立することも再会することも自在にできるのだと思う。


おまけ 
平滑空間の名曲 ワールズエンドスーパーノヴァ