2011年11月3日木曜日

企業移転

焦点/福島去る企業続出/原発風評で取引支障

 福島第1原発事故による風評被害を嫌い、福島県外に拠点を移す企業の動きが相次いでいる。スポーツ用品販売大手のゼビオ(郡山市)が本社を県外に移転する方向で検討していることが明らかになり、他にも複数の企業が県外に拠点を移したか、移転を決めている。原発事故は収束の見通しが立たず、企業流出が止まらずに産業空洞化が進む可能性がある。

<寝耳に水>
 「まだ何も分かっていない」
 26日に郡山市役所であった市の記者会見。ゼビオの移転に関する記者の質問に対し、角田武彦商工観光部長は移転話は寝耳に水で、情報収集にも至っていないことを明かした。
 同社が移転検討を始めたのは3月の原発事故から間もなく。海外取引先を中心に、商談を避ける傾向が強まった。放射能汚染を起こした原発がある県に本拠地を置くことで、負の印象が深まるのは不利と判断。福島県から離れる方向で、仙台から東京にかけた地域で移転先を探している。
 放射能に対する海外の視線は厳しい。板金機械製造のトルンプ日本法人(横浜市)はドイツ本社の意向で、福島市の福島工場を8月で一時閉鎖した。海外での営業、輸出に支障が出たという。
 福島工場には約15人の従業員がいて、大部分は日本法人本社に転勤したが、数人は異動に応じずに社を去った。

<海外敏感>
 日本法人は「ドイツは原発事故に敏感。福島から逃げ出すような形で生産を中止するのは嫌だったが、本社の決定に従うしかない」と打ち明ける。
 食品トレー製造の中央化学(埼玉県鴻巣市)も風評被害を理由に田村市の東北工場の操業を休止し、生産機能を埼玉、茨城、岡山県などの工場にシフトした。
 「取引先のスーパーやコンビニエンスストアから放射能を懸念する声が出た。食べ物に関する製品で消費者の不安に直結する。原発事故が収まらない限り、操業は無理だ」と塚越通永常務は話す。
 東北工場の従業員約100人のうち約80人は他工場に異動し、残りは転勤を望まないなどの理由で退職した。
 原発事故による労働力不足で生産拠点の主力を移したのは衣料製造販売のエスポアール(田村市)。本社工場を縮小し、市内の系列2工場を閉鎖。5月に新潟県阿賀野市に新工場を開設した。
 約120人の従業員の3分の1を中国人実習生が占める。同社によると事故後、本国から退避命令が届き、全員が帰国した。本社工場は原発から三十数キロ地点にあり、操業を再開しても戻る可能性はなく、移転を決めた。
 新潟県の新工場には、帰国した実習生のほぼ全員が復帰。結果的に福島からの離脱が労働者のつなぎ留めにつながった。
 佐久間孝志社長は「外国人は日本人以上に放射能を恐れる。実習生が戻る状況を早くつくる必要があり、移転はやむを得なかった」と苦渋の決断だったことを強調する。

<曇る表情>
 田村市は一部が警戒区域に指定されているが、市役所前の放射線量は毎時0.14マイクロシーベルト(29日現在)と比較的低い。それでも風評被害は深刻で、中央化学とエスポアールを含む製造業4社が生産機能の全部か一部を県外に移し、それに伴って約50人が職を失った。
 震災関連の特別委員会を設けた田村市議会の菅野善一議長は「雇用が失われ、人口は減る一方だ。企業には必ず戻ってきてほしいと要請しているが、状況は変わらない」と表情を曇らす。

◎福島苦境/税収減、雇用縮小の恐れ/県、助成などの防止策

 民間シンクタンクの福島経済研究所(福島市)が福島県の企業を対象に7~8月に実施したアンケート(複数回答)によると、福島第1原発事故の影響を受けても「県内から移転しない」と答えた社が55.8%に上り、現時点では「踏みとどまる企業」が多数を占めている。
 ただ、中身を見ると「移転も考えているが、従業員の雇用、取引先との関係を思うと離れられない」(卸・小売業)、「製造業と違って他地域、外国への移転は不可能。県と一蓮托生(いちれんたくしょう)、生存を図る以外にない」(農業関連業)と、「離れたくても離れられない」経営者心理が浮かぶ。
 企業が本社移転すれば地元自治体は税収減の打撃を受ける。ゼビオ(郡山市)は2010年度、計41億2900万円を納税した。うち一定額が地方税として納められ、本社移転すると、福島県と郡山市は有力な税の収入源を失う。
 経営拠点の流出は雇用縮小も招く。ビルメンテナンスの東武(南相馬市)は、仙台市の東北支店を本社に格上げして11月に移転することを決めた。それに伴い、パート労働者も含めて約150人いた本社従業員を3分の1に減らした。
 「原発事故で本社の受注が激減し、移転と従業員の解雇に踏み切らざるを得なかった」と中島照夫社長は苦しい胸の内を明かす。
 福島県は企業流出を食い止めようと、助成制度や空き工場の紹介などの対策を講じている。第1原発から20キロ圏内の警戒区域の富岡町に立地する精密プラスチック製造業者が県の制度を使って相馬市に移転し、県外流出を避けた例もある。
 だが、行政の流出防止策も、原発事故の風評被害の猛威からすれば「焼け石に水」の印象を拭えない。県は地元にとどまる企業の税の優遇措置や規制緩和を盛り込んだ特別立法の制定を国に要請しているが、原発事故から7カ月半たっても法制化されていない。
 福島経済研究所の高橋宏幸研究員は「現時点では県内に踏みとどまっている企業も、放射性物質の除染が進まず、風評被害で売り上げが減り続ければ移転を検討することもあるだろう」とみている。


河北新報 2011年10月31日月曜日

http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1071/20111031_01.htm


福島から移転しないと答えた企業は55.8%。約半数の企業は移転を考えているということだ。
愛知県にも毎月一社のペースで製造業が移転してきている。自動車などの輸出産業が、中間部品の汚染を嫌うからだ。
この動きは今後も加速して、列島の人口構成を変えるだろう。