2013年4月21日日曜日

みんなの力で「復興」政策を止めよう




 22日(月)から、腎臓の腫瘍摘出のため入院します。5月上旬には退院する予定です。
そういうわけで、今年のメーデー(独立系メーデー)には出られないのですが、名古屋のグループから声明を要請されたので、書きました。以下、メーデーへの連帯声明です。転載・印刷はすべて自由です。







みんなの力で「復興」政策を止めよう

 2011年の3月から、私たちは放射能汚染との闘いに突入しました。これは被曝被害をできるかぎり避けるための、たいへん骨の折れる作業です。私たちは、土壌汚染の実態を調べ、食品を吟味し、衣食住すべてに気を配ることを強いられています。
 これに加えてさらに、日本政府の原子力政策が、私たちを追い詰めています。政府は被曝を避けるための有効な情報を提供せず、むしろ情報を制限しています。環境省は放射能による土壌汚染に関心をむけず、厚生労働省は公衆の保健衛生に無関心になっています。文部科学省は、放射能問題を理解していないニセ科学者たちに、この重要問題を丸なげしている状態です。そして、こうした政策全体が私たち一般市民に要求しているのは、放射能などまるで存在しないかのようにふるまうことなのです。「復興」の名のもとに、かつてなら考えられなかったような非科学的で暴力的な政策が進められています。この政策に従うならば、私たちは福島を忘れ、放射能を忘れ、自分や家族や隣人の健康を気にしない人間にならなくてはなりません。いま私たちは、最低限のぎりぎりの人権すら奪われようとしているのです。
 現在の「復興」政策は人間のための復興ではなく、ただ原子力政策の延命のための「復興」です。このことを何度でも繰り返し言わなくてはなりません。
 放射能に汚染された地域では、除染作業が行われています。この作業は誰のために行われ、この作業によって誰が血を流しているのでしょうか。原子力政策を延命させるために、つまり、電力会社、銀行、株主の財産を延命させるために、実効性のない除染計画がたてられ、臨時雇いの労働者が被曝させられるのです。これが「復興」政策です。
 現在の「復興」政策とは、銀行のために、「日本経済」のために、さらには「世界経済」の安定のために、人間を被曝させる政策です。ところで、銀行や「日本経済」や「世界経済」は、これまで私たちに何をしてくれたというのでしょうか? 彼らは利益を独占してきただけではなかったでしょうか。いま彼らの手助けをして、私たちになんの利益があるのでしょうか? 電力会社が倒れたら恐慌になる? いいじゃないですか。私たち貧乏人の生活は、もうずっと以前から恐慌状態であり続けてきたのですから。


 みんなの力で「復興」政策を止めよう。

 腐敗した原子力経済を打ち倒そう。



2013年メーデーに寄せて  矢部史郎 

2013年4月16日火曜日

『海賊ユートピア』でました




ピーター・ランボーン・ウィルソン著、菰田真介訳、『海賊ユートピア』が出ました。昨日、見本が届きました。正式な書名を書いておくので、本屋さんでゲットしてください。

書名 『海賊ユートピア 背教者と難民の17世紀マグリブ海洋世界』
著 ピーター・ランボーン・ウィルソン
訳 菰田真介
出版社 以文社




 巻末にある訳者解題「ラバト・サレー海賊の反社会的可能性」が素晴らしい。
 歴史に対して真摯に向き合いながら、ただ過去に拘泥するのでなく、未来志向に溢れている。こういう解題を書ける人間は、そうはいない。これは、著者ピーター・ランボーン・ウィルソンの影響ばかりでなく、訳者がその方法(海賊的方法)をしっかりと掴んでいるからだろう。ある意味で訳者は著者以上に本書を読み込み、海賊的方法を習得したのだと思う。

 海賊研究は、たんに歴史学や人類学や社会学をやることとは違う。そういう既存の「学」の対象に海賊を選んだというだけでは、はっきり言って何もわからなし、こんなにおもしろいことにはならないだろう。現代の海賊研究が超エキサイティングなのは、海賊を研究するという作業を通じて、研究作業それ自体が海賊化したことにある。研究者がどこか海賊っぽくなってしまうのだ。だから文体がちょっとおかしい。論点はハードコアなのに、どこかキュート。どこを読んでもクスクス笑ってしまう。そんなユーモアが溢れている。このことは「研究」という概念や慣習をまるごと転覆する可能性がある。これからが楽しみだ。





追記


本文がおもしろすぎるので引用してしまおう。

海賊(パイレート)と私掠者(プライヴァティア)を区別するには、それぞれ略奪品をどのように分配するのかをみてみるのが一番早い。たいていの場合、海賊(パイレート)船長が受け取ったのは、割合にすると、わずか1.5か2、航海士は1.5か1.25、一般乗組員は1、非戦闘員(少年や音楽家)は0.5か0.75である。これに対して私掠船長(プライヴァティア)が受け取ったのは、普通の乗組員1に対して40倍である。もちろん私掠航海で大収穫のときの分配1は、商船の賃金に比べれば-あるいは海軍の未払徴収に比べれば-はるかに価値があっただろう。しかし海賊的平等主義との対照性は著しい。純粋状態にある海賊は、共産主義的だったといってもよい。したがって[カリブの]海賊を単なる初期資本家であるとみなす学者は大きな誤りを犯している。たしかに海賊は、「社会盗賊(義賊)」(つまり「原初的革命家」)というマルクス主義的定義には適合しない。なぜなら、海賊には「社会的文脈」がない。つまり、住みついて、レジスタンスを先導するべき農民社会がないからである[ホブズボーム『匪賊の社会史』]。マルクス主義者であるホブズボームは、海賊を真のラディカリズムの「先駆者」としてみとめたりはしない。なぜなら彼らマルクス主義者にとって海賊は、たんに私利私欲か、本源的蓄積を通じてしかレジスタンスに与しないという意味で、個人にすぎないからである。(180頁、強調は引用者)

ピーター・ランボーン・ウィルソンによる、ホブズボーム批判。これを「アナキストによるマルクス主義者への批判」と言ってしまうとつまらない。そんな簡単な話ではない。ここで問題にされているのは、私利・私欲・私闘のなかにラディカリズムを認めるか否かである。「俺がやっているのは私闘ですが、なにか?」と言っているのだ。著者はここではさくっと切り上げて先に進んでしまうのだが、かなり重要な論点である。
 ウィルソンとホブズボーム両者を隔てているのは、アナキストかマルクス主義者かということではない。これは私見だが、両者を隔てているのは70年代フェミニズムのインパクトをどのように受け取ったか(やりすごしたか)である。
 階級闘争の現場において、「社会的文脈」なんてものはほとんど聞いたことがない。そんな高級な「文脈」などはなから望めない人間がいて、そういう人間にとって、私利私欲と本源的蓄積(への抵抗)こそが闘争の核心なのである。70年代フェミニズムが突き出した「私的なことは政治的である」という号令は、そのように読まれるべきだ。我々は私闘しかできない。一所懸命に私闘をたたかえばよい。ここを是認するか否かが、「海賊ユートピア」と「災害ユートピア」との分かれ目になるのかもしれない。

2013年4月11日木曜日

国民と女性




 5月から山の手緑が名古屋に来る。夏頃まで家に滞在し、共同作業をする。毎日、合宿だ。「矢部史郎+山の手緑」の名義で一冊の本を書くつもりで臨む。
 というわけで、合宿の準備のために覚書を書いておく。



 『VOLレキシコン』(以文社)のなかで、山の手緑の書いた項目「女」(29頁)を参照する。
 「女性は一つのすべて(全体an all)を形成しない」
この命題に接近するために、ちょっと考える。


 放射能拡散後に、日本社会は二つの悪魔を見出している。
 一つは朝鮮や中国といった隣国である。政府とマスメディアは、無人島の領有権やミサイル問題にかこつけて、ことさらに「脅威」を煽り立てている。隣国の脅威、排外主義、国民意識の集約という、教科書どおりのコースだ。国家の国民主義が上昇する中で、外国人恐怖のデマゴギーが流布されている。
 もう一つは、主婦である。これは日本社会にとっての「内なる敵」である。放射能汚染が引き起こした混乱の中で、問題の結果であるものを問題の原因とみなす悪質なデマゴギーが生まれた。その標的にされたのが女性であり主婦である。いま日本社会の表面では、女性嫌悪または女性恐怖が上昇している。

 先日、フリーター全般労働組合のシンポジウムに登壇したが、やはり左派の運動内部にも女性恐怖があることを確認した。会場には、主婦の運動に共感する者だけでなく、主婦の運動に対する敵意を露わにする者もいた。もともと新左翼なんて男性中心主義じゃないかと言われればまあそのとおりなのだが、ここではもう少し問題を敷衍して、なぜ「左派」を自認する社会運動のなかに女性恐怖が巣食っているのかを考えてみたい。民族差別に対しては毅然として反民族主義(反レイシズム)を主張する人々が、なぜ性差別については奥歯にモノの挟まったような言い方になっているのか。放射能汚染という公害問題でもっともしわ寄せをくらっている主婦に対して、共感を示すどころか敵意を持ってしまう分子がいるのは、なぜなのか。民族差別発言は民衆の連帯を妨げる運動破壊であるとみなす人々が、なぜか性差別については寛容で、これが重大な運動破壊であるとはみなされない傾向がある。反原発運動の内部にも、主婦への共感をはっきりと拒絶する態度があるのだ。

 話を進めよう。
 国家の国民主義が民族主義を扇動するなかで、日本の社会運動はこれをはっきりと拒絶している。対して、国家が主婦を悪魔化し「女が騒ぐから問題が解決しないのだ」と扇動するとき、社会運動はこのデマゴギーになかば呑み込まれてしまった。「復興」の国民主義を前にしたとき、日本の社会運動は、主婦を敵視する復興翼賛派を生み出してしまった。いや、問題を外部化したのではおもしろくない。もう少し切り込んで言うならば、日本の社会運動が含みもつ国民運動としての性格が、必然的に、女を排除したのである。
 それはどういうことか。二段階のプロセスが考えられる。
 まず、放射線防護活動のもつ特異性がある。特異性ということをもっとならして言うと、活動の私的性格である。放射線防護の実践とは、私的な自力救済の積み上げである。社会全体がどうあるべきかは、はるかかなたの実現目標であって、さしあたってはおのおの身近なできることから解決していく、という実践だ。これが国民運動とは決定的に違う点である。カンパニア運動で何万人を動員したかで成果をはかる運動とは、立っている場所が違うのである。放射線防護活動とは、どこまでも私的な闘争である。防護派の実践は「公共」や「公的なもの」を信じていない。「公共」など吹き飛んでしまったという認識から防護活動が始まる、と言ってもいい。このことが、国民運動にとって防護派をうろんな者に見えさせている原因である。まずはじめに、防護活動への不信がある。
 そして次の段階に、「けっして信用してはいけない私的なもの」の表象として、ステレオタイプとして捏造されるのが、「主婦」であり「女性」である。

 逆の言い方をしよう。社会運動が含み持つ国民意識は、まだ「公共」の概念を信じているのだ。
それを破壊する者がいなければ、「パニック」じみた防護騒動がなければ、正しい「公共性」が回復できるのだ、と。そうした意識にとって、防護派は、敵とも味方ともつかないうろんな者に見えるのだ。防護派としてはっきり言うが、いや無政府主義者としても強く言うが、これは無知蒙昧というものだ。みなさんが信じていた「公共」なんてものは、東京電力の株主が左右する私的な「公共」にすぎない。そもそも国家とは私的なものだ。そのことを異論の余地なく明白にしたのが原子力政策ではなかったか。そしてこの明白になった事実を前に、まだ政府の公的性格を期待しようとする甘さ弱さが、防護活動への不信を生み、女性差別を容認するのである。


 最初の命題に戻る。
「女性は一つのすべて(全体an all)を形成しない」
このことを是認するならば、自動的に次のように言うことができる。
「社会は一つのすべて(全体 an all)を形成しない」
まあ、あたりまえのことだ。人間が生きている現実とは、そういうことだ。放射能汚染はこの事実を無視できないほどに前景化させたのだ。
 だからいま、「社会」だとか「社会運動」ということを構想するときに、その社会的想像力のヘゲモニーが動こうとしている。これまで語られてきた「一般」や「普遍」という概念が、おそろしく平板なものに見える。そして己の概念の平板さを擁護するために、誰かを差別して切り抜けようとする者がいる。性差別が容認されることとは、その概念の弱さに甘んじることである。この意味において、「性差別は弱い男の習慣である」という見方は正しい。概念を考え抜く力が欠乏し、息切れしているのだ。

2013年4月9日火曜日

勧告 ネグリ氏は東京から出て行け




 ヨーロッパの著名な理論家アントニオ・ネグリ氏が来日しているらしい。昨日、このことを知った。よりによって東京に滞在しているそうだ。

 一刻も早く帰って欲しい。

 理由の第一は、被曝による健康被害である。東京の放射能汚染について、ネグリ氏がどれだけの説明を受けて、どのような防護対策を施されているか、今の時点ではわからない。しかし、東京で飲食すること、とくに高級な国産食材を摂ることは、内部被曝の危険性が高い。拡散事件後に来日したレディ・ガガ氏やジャスティン・ビーバー氏は、帰国後に重い体調不良を訴えている。高齢のネグリ氏が、なんらかの経路で内部被曝をし身体にダメージを受けるのは必至だ。

 理由の第二は、ネグリ氏の来日が日本政府の汚染隠しに利用されることである。いま日本政府が躍起になっているだろうことは、東京への警戒心を払拭し安全宣言を果たすことである。東京の観光収入と、さまざまな国際会議事業の回復である。特に東京都は、オリンピックを誘致に手を挙げるという驚くべき方法で、東京の安全宣言に血道を上げているのである。これら汚染隠しという政策のもとで、ネグリ氏は東京に招聘されているわけだ。まるっきり人寄せパンダである。いま日本の人民大衆が汚染の告発を闘争課題にしているなかで、政府のパンダに利用されるとはなにごとか。著名な理論家としては恥ずべき失態である。

 私はネグリ氏を尊敬している。だからこそ言う。
 とっとと東京から出て行け。