2012年7月12日木曜日

カリウムとセシウムは何が違うのか

「放射性カリウム(カリウム40)も放射線を出すのだ」みたいなことをいまだに力説する馬鹿がいるので、一度きちんと書いておかなければならないだろう。放射性カリウムと放射性セシウムは違う。
 何が違うかと言えば、濃縮の度合いが違う。
 核種分析機で食品を測定していればわかることだが、カリウム40の濃度は安定している。どんな食品でもだいたい100Bq/kg台のオーダーである。これに対して、セシウムの濃度は予測できない。1000Bq/kgなんてひどいものが平気で出てくる。

 では、なぜカリウム40の濃度は安定しているのか。
それは、カリウム39とカリウム41という安定カリウムのおかげだ。この二つの安定カリウムで、カリウム全体の99.9%を占めている。放射性のカリウム40は、カリウム全体の0.1%である。この割合は、いつでもどこでもピタリと0.1%というわけではないだろうが、おおむねこの割合になっているだろうということで、あるカリウム肥料のなかの90%が放射性カリウムだったということはないのである。
ということはどういうことかというと、放射性のカリウム40が1あるとき、そこには必ず安定カリウムが999ある、ということである。ある作物に占めるカリウムの空間量が1000あるとして、そのうちの999は安定カリウムによって占められ、放射性カリウムを閉め出しているということだ。つまり放射性カリウムは、かならず999のスペーサーを伴って存在しているということである。
セシウムはこういうわけにはいかない。セシウムがあるところ必ず安定カリウムがあるというわけではない。だから、不耕起栽培(耕さない畑)でカリウム肥料を使用していない畑では、セシウムをブロックするカリウムが足りず、作物への移行係数0.3という恐ろしいことが起きてしまう。いま汚染された農地ではカリウム肥料の投入がなされているだろうが、それは安定カリウムをセシウムのスペーサーにするという操作である。そういう畑で採れた作物がセシウムの移行を抑えることができたとして、ではその裏山のタケノコや山菜が何ベクレルになっているかは予測できない。入会地の裏山にわざわざカリウムを撒いてくれる人などいないだろうから、そこには放射性セシウムがスペーサーのない剥き出しの状態で置かれている。キノコ・タケノコ・山菜は際限なくセシウムを吸収し、ウン千ベクレルという恐ろしい濃縮を遂げるのである。

我々が放射性セシウムを問題にして、放射性カリウムを問題にしないのは、こういう理由があるからだ。こういうことは一度でも核種分析機をいじってみれば直感的にわかることだ。ちょっと本を読んだだけでカリウムカリウム言うのは、まったくの机上の空論である。