2012年1月17日火曜日

国の言う「空間線量」はでたらめです

空間線量の計測・評価の方法について、文部科学省に電話で質問をした。
確認したかったのは、外部被曝を評価する際のベータ線のとりあつかいの問題である。
国が定める測定のガイドラインでは、空間線量の測定はシンチレーションサーベイメータで行うこととされている。現実に国・自治体が実施しているモニタリングは、すべてシンチレーションサーベイメータで行われ、マイクロシーベルト毎時(μSV/h)という単位で発表されている。
シンチレーションサーベイメータは、ヨウ化ナトリウム等の検出器によってガンマ線をカウントし、そのCPM(カウント・パー・ミニット)に係数をかけて、シーベルトにしている。
 これに対して、一般に普及している空間線量計は、GM管(ガイガー・ミュラー管)が使われていて、これはベータ線とガンマ線をカウントして、そのCPMに係数をかけてシーベルトにしている。
 拡散している放射性物質には、アルファ線を出す核種、ベータ線を出す核種、ガンマ線を出す核種があって、代表的なヨウ素131・セシウム134・セシウム137という核種は、いずれもベータ崩壊をしてベータ線を出す核種である。ガンマ線はそのついでというか、ベータ崩壊に伴ってでてくるものだ。セシウムが崩壊すると、ベータ線とガンマ線の二種の放射線が撃ち出される。だから、ロシアやウクライナから輸入された空間線量計は、ベータ線とガンマ線を両方カウントする仕様になっているわけだ。
 簡単に整理すると、シンチレーション式はガンマ線のみ、GM管式はベータ+ガンマをカウントしている。当然、シンチ式がだす数値は、GM管式の数値よりも少ないものになる。
 では国・自治体は、シンチレーション式で拾えなかったベータ線の被曝線量について、どういう評価をしているのか。シンチで拾ったガンマ線シーベルトの値から、ベータ線の分を推定して割り増ししているのか。あるいは、土壌・空間のベクレルの値から推定して、ベータ線による被曝線量を追加しているのか。
 文部科学省の回答は、「ベータ線の分は勘定していない」だった。
国・自治体が発表している「空間線量」とは、人がある空間に立った時に、ガンマ線を浴びる量だけを評価したものだというのだ。では、人が土に触れたり、衣服に放射性物質が付着した状態で浴びてしまうベータ線の影響は勘定していないのかと聞くと、「そういうことは無いものとして考えている」というのだ。

 これは素人でも分かることだが、まったく実態にあっていない。放射性物質は、屋外にも屋内にもごろごろブツが転がっていて、肌の表面や衣服に付着してしまっている。これはもうどうあがいてもベータ線を浴びてしまう。しかし国・自治体が言う「空間線量」は人が放射性物質に触れないという前提での線量なのだから、もしこれを実現しようとするならば、まず体をよく洗い、汚染されていない衣服を着たうえで、ベータ線を遮蔽するために厚さ10㎜程度のアルミ板で全身を鎧のようにくるみ、顔は全面マスクで覆っておかなくてはならない。地下足袋なんかもう絶対禁止で、靴底に20㎜ぐらいのアルミ板を貼ってベータ線を遮蔽しなくてはならない。この状態にしてようやく、国の言う「空間線量」になるわけだ。

では、ICRPが定める追加被曝線量の許容量というのは、どうやって計算するのか、国は、このガンマ線評価のみの特殊な「空間線量」を積算して、年間被曝線量を評価していくのかと聞くと、「そうではありません」と言う。「追加被曝の許容量は、ベータもガンマも、外部も内部も、すべてひっくるめて合算した線量です」と。じゃあこの発表されている「空間線量」は被曝線量の評価と関係ないんですね、と聞くと、「そうですね」と。
なんなんだよ。
外部被曝の評価方法も定まらず、年間許容量とも関係のない意味不明な数値で、退避とか除染とか線引きしてるのか。
馬鹿か。馬鹿なのか。



おまけ(クリスバズビーが原子力スターリニズムを批判)

2012年1月12日木曜日

たかが米のために人間を被曝させるな

福島県が馬鹿なことを言いだした。まず1月4日の報道。

 福島県の一部で収穫されたコメ(玄米)から国の暫定規制値(1キロ・グラムあたり500ベクレル)を超える放射性セシウムが検出された問題で、県は2012年のコメの作付けの際に、カリウム肥料を多く与えるよう農家に、技術指導を行うことを決めた。
 カリウム肥料にはイネがセシウムを吸収しにくくする働きがあるという。
 同県では福島、伊達、二本松各市の計9地区31戸(昨年12月30日現在)で作られたコメから規制値超の放射性セシウムが検出されている。県と農林水産省が水田などを調べたところ、コメの放射性セシウム濃度が高いほど、土壌のカリウム濃度が低い傾向があることがわかった。
 財団法人・環境科学技術研究所(青森県六ヶ所村)の大桃洋一郎相談役(環境放射生態学)によると、カリウムは窒素、リンとともに植物の3大栄養素で、化学的性質が似ているセシウムより吸収されやすい。カリウムが欠乏した土壌では、セシウムを吸収しやすくなる。
(2012年1月4日 読売新聞)

 これは昨年の『atプラス』誌上でも指摘した問題だが、再度批判し、注意喚起しておきたい。
問題はおおきく2点ある。

1、カリウム投与によるセシウム移行低減は、商品流通の正常化を優先して、生産現場の土壌汚染を放置し、農家・農業労働者を被曝させる政策である。県は生産者を防護する責務を放棄している。

2、セシウム移行低減は、食品測定の指標となるセシウムを「不検出」にする一方で、汚染の全体(ストロンチウム等の核種の有無)を隠すはたらきをする。これは汚染作物のロンダリングであり、農産物に対する消費者の不信はさらに高まることになる。

 福島県は、作物が商品として流通できるかどうかだけを考えている。それは、大規模な土壌汚染問題に正面から向き合わない、ごまかしの「対策」だ。
 こうした県側の動きに対して、福島の農業団体は対抗的な方針を出しつつある。

 福島県のコメから放射性セシウムが検出された問題を受け、JAグループ福島は、県内のコメに少しでもセシウムが検出された場合、当該農家に今春の作付け中止を要請する検討を始めた。

 JA側は作付けを見送った農家への補償を国に求める考えだが、国は暫定規制値(1キロ・グラム当たり500ベクレル)を超えた地区に限って作付けを制限する方針で、補償が実現するかどうかは不透明だ。

 同県では昨年11月末までに、福島市や二本松市など29市町村で収穫されたコメからセシウムが検出。このため、農林水産省と県が同月から、29市町村の全農家約2万5000戸の調査を始めており、昨年末時点で4840戸の農家のコメ5291点のうち、約20%の1094点からセシウムが検出された。
(2012年1月10日 読売新聞)

 福島第1原発事故を受け、JA新ふくしま(福島市)は11日、土壌の放射性物質濃度を調べる新型測定器の試験を市内のブドウ農園で公開した。新型の測定器は小型で持ち運べるのが特徴。農地の汚染状況を迅速に調べることができると期待されている。
 測定器はベラルーシ製。重さ約5キロで、調べたい場所に置くと、その場の土壌に含まれるセシウムなど代表的な放射性物質の濃度を表示する。従来の機器は、精度は高いが重さが100キロを超す固定式で、土壌の汚染濃度を調べる際には、現場から土を持ち帰って乾燥させるなどの手間がかかった。
 JA新ふくしまは「消費者の信頼回復を進める上でも、農地を広く調べる態勢をつくりたい」としている。
(2012年1月11日 共同通信)

 これが正しい。土壌を調べることが唯一の解だ。
 福島県はさっさと土壌を調べて、必要な退避措置を講じるべきだ。経済のために人間を被曝させるな。

2012年1月1日日曜日

日本紅白歌合戦

毎年恒例になっている紅白歌合戦という番組を、久々に観た。

 以前からそうだったのかもしれないが、ずいぶんグループが多いなあという印象をもった。グループと言ってもバンドスタイルではなくて、歌って踊る人がたくさん並んでいるという形態。これはなんというのか、ホストクラブやキャバクラのショーみたいな賑やかさがある一方で、水商売のもつ刹那的な雰囲気も醸し出されてしまう。かつて流行したバンドというスタイルが、かけがえのないメンバーシップを演出するのに対して、EXILEとかAKB48とかK-POPというのは、まあ使い捨て感が強い。この形態、メンバーがむやみに多いから、いつ誰が欠けても気がつかない。一度に3人ぐらい放射線障害でダウンしても、ちょっと残念なお知らせをしただけであとは問題なく興行が成立してしまう。すげーなこれは。若者がばんばん使い捨てられる時代の、ある種海賊的な心性にマッチしているということか。

 まあそれはいいとして、問題は長淵剛だ。
 長淵剛には何も期待しないしただのバカということで話題にしないのが我々インテリの作法なのだが、今回の紅白歌合戦では意表を突かれた。
 この歌合戦の基調は一言で言えば「3・11」を想起することであり、「故郷再生」を願うことだった。故郷再生に希望を託すということであるからには、放射性物質の大規模大量拡散問題にはぜったいに触れないというのが暗黙のお約束だったのだが、唯一、長淵剛だけは違った。彼は、福島第一原発の事故と、放射能汚染によって家に帰ることができなくなった人々について語った。「3・11」の経験に対して「3・12」の経験を突きつけ、「故郷」への共感ではなく「難民」への共感を示したのだ。
 これはアゴが外れるほど驚いた。痛快だった。
 長淵剛、GJだ。

http://www.avaaz.org/jp/save_the_fukushima_children_1/?tta